訪問看護の現場では、どれだけ丁寧にサービスを提供していても、利用者やご家族からのクレームがまったく発生しないということはほとんどありません。クレーム対応は看護師個人にとって大きなストレスとなり、一歩対応を間違えると、ステーション全体の評価を下げてしまうこともあります。
しかし、クレームは見方を変えれば「利用者の心の声」でもあります。その声を適切に受け止めて対応することで、かえって以前より強い信頼関係を築けることも少なくありません。この記事では、訪問看護でよくあるクレームの原因から、起きたときの対応手順、電話対応のコツ、未然に防ぐ予防策、組織としての体制づくり、そして対応にあたるスタッフ自身を守る視点まで、看護師・管理者が知っておきたいことを網羅的に解説します。
訪問看護でクレームが起きやすい理由
まずは、なぜ訪問看護でクレームが起きやすいのか、その構造的な背景を理解しておきましょう。原因が分かれば、対応も予防もしやすくなります。
利用者の生活の場に入る仕事だから
訪問看護は、病院やクリニックといった管理された医療環境ではなく、利用者が日々暮らす生活の場に入ってケアを提供します。利用者やご家族には長年培った独自の生活ルールや価値観があり、一方で看護師は安全や衛生を優先した専門的判断で行動します。この「双方の当たり前」が衝突しやすいことが、訪問看護特有のクレームが生まれる背景です。
一対一の密接な関係になりやすい
訪問看護は、利用者の自宅で一対一に近い形でケアを行うため、看護師との人間的な関係が密接になります。この近さは信頼関係を築きやすい反面、些細な言動や相性の問題が満足度に直結しやすいという側面もあります。病院のように多くのスタッフが関わる環境とは異なり、担当者との関係がそのままサービスの印象を左右します。
病院とは異なる期待値のズレが生まれやすい
利用者やご家族は、訪問看護に対して「身の回りのこと全般を手伝ってくれる」「いつでも親身に話を聞いてくれる」といった期待を抱いていることがあります。しかし訪問看護は、医療保険や介護保険の制度に基づき、医師の指示やケアプランに沿った範囲でケアを提供するものです。このサービス範囲への期待と現実のズレが埋まらないと、不満が生まれやすくなります。
クレームは「利用者の心の声」でもある
クレームというと一方的に避けたいものと捉えがちですが、実は「利用者の期待の裏返し」でもあります。利用者にとって、自分を支えてくれる看護師に不満を伝えることは勇気がいることです。それでも声を上げるのは、良くなってほしいという期待があるからです。クレームを「攻撃」ではなく「心の声」と捉えることで、対応の姿勢が大きく変わります。
訪問看護でよくあるクレームの原因
訪問看護で寄せられるクレームには、いくつかの典型的なパターンがあります。それぞれの背景にある利用者の欲求を理解すると、対応のヒントが見えてきます。
期待したサービスを提供してくれない(品質への不満)
利用者は質の高い看護を求めており、その期待を下回ったときにクレームになります。たとえば「注射がすごく痛い」「処置がうまくいかない」「求める情報を教えてくれない」といった声です。これは、安全で質の高いケアを受けたいという欲求が満たされなかったときに生じます。適切なサービスを提供していても、利用者にとって不満が残る内容であればクレームになり得ます。
実施内容と利用料が釣り合わないと感じる
訪問看護では、点滴や入浴介助のように目に見える介入もあれば、内服確認や体調観察のように目に見えにくい介入もあります。目に見えない介入の場合、利用者やご家族が「何もしてもらっていないのに、なぜお金を払うのか」と感じ、クレームにつながることがあります。特に、本人はサービスを必要と感じていないが家族の希望で導入しているケースで起きやすい不満です。
訪問看護師が時間に遅れる・スケジュールが不安定
前の訪問での対応延長や交通事情などにより、訪問時間が前後することは避けられない場合があります。しかし、事前の連絡がなかったり遅刻が常態化したりすると、利用者の不満は募ります。いつ来るか分からない状態は、通院やデイサービス、家族の外出予定など生活リズム全体を乱すことにつながるため、大きなクレームの原因になります。
愛想がない・説明が雑(態度・接遇への不満)
訪問看護師の訪問を楽しみにしている利用者もいます。そうしたなかで対応が冷たく感じられると、大きな不満につながります。挨拶が雑、愛想がない、難しい言葉で分かりにくい説明をする、といった態度は、丁寧に接してほしいという欲求を裏切ることになります。特に信頼関係が十分に築けていない段階では、言葉遣いや態度がすぐにクレームに直結します。
利用者のことを考えてくれていないと感じる(尊厳への不満)
自分の尊厳を大切にしている利用者は、それを傷つけられたと感じたときに深く悲しみ、大きなクレームになることがあります。「訴えても話を聞いてくれない」「自分のことを考えてくれているように思えない」「ケアの計画に納得できない」といった声です。自分が大事にされていないと感じさせる態度や言葉は、尊厳への不満として表面化します。
契約範囲外のサービスを求められる(事業所側の悩み)
クレームは利用者側からのものだけではありません。事業所・看護師側の悩みとして多いのが、契約や保険制度で認められていない範囲のサービスを求められるケースです。家族の分の食事準備、ペットの世話、掃除、庭の手入れなどがこれにあたります。制度上断らざるを得ないことが、「冷たい」「融通が利かない」という不満につながることもあり、対応に苦慮する場面です。
クレームの背景にある「認識のズレ」
個別の原因を掘り下げると、その根っこには共通して「認識のズレ」があります。ここを理解することが、予防と解決の第一歩になります。
サービス範囲への期待と現実の差
最も大きな原因が、利用者側と事業所側のサービス範囲に対する認識のズレです。利用者は「もっと幅広く対応してくれる」と期待し、事業所は「制度で定められた範囲のケアを提供する」と捉えている。この期待値の差が埋まらないと、提供されたサービスが期待に満たないと感じ、不満が生まれます。
情報共有の不足による対応のばらつき
訪問看護は、一人の利用者を複数の看護師が交代で担当するのが一般的です。「耳が遠いので右側から話してほしい」といった要望が申し送りで共有されていないと、「前の人はやってくれたのに、なぜ今日は違うのか」と不信感を抱かせます。情報共有の不足による対応のばらつきは、クレームの大きな原因です。
担当看護師との相性
訪問看護は非常にプライベートな空間で一対一に近い形でケアを行うため、担当者との相性が満足度に大きく影響します。ケアの技術は高くても、話し方や雰囲気が合わないといった理由でストレスを感じることもあります。相性の問題はどちらが悪いというものではありませんが、我慢を続けると療養生活そのものが苦痛になりかねないデリケートな問題です。
事業所の体制やルールに起因するもの
クレームの原因が、個々の看護師ではなく事業所の体制にある場合もあります。訪問件数が過密で利用者とじっくり向き合う余裕がない、新人教育が不十分なまま訪問させている、緊急時の連絡体制や物品管理のルールが曖昧、といった体制上の問題が、利用者の不利益や不安につながることがあります。訪問件数の過密は離職の原因にもなり得ます。この点は「訪問看護師が辞めたいと感じる理由と対処法|転職すべきか続けるべきかの判断基準」でも解説しています。
クレームには段階がある(要望・請求・責任追及)
クレームは、放置すると段階的にエスカレートしていきます。この段階を理解しておくと、早期対応の重要性が見えてきます。
早期の「要望」の段階で対応する重要性
クレームの初期は、多くの場合「要望」として現れます。たとえば「訪問時間をあまり変えないでほしい」といった声です。この段階で看護師が敏感に耳を傾け、可能な範囲で応えようと努めることが重要です。要望のうちに丁寧に対応できれば、大きなトラブルには発展しません。
放置すると「請求」「責任追及」に発展する
要望を無視したり軽視したりすると、利用者は不満を募らせ、「時間を変えてほしい」というより強い「請求」へと変わります。さらにそれも放置され、事故やトラブルが起きれば、「責任者を出せ」という「責任追及」の段階に移行します。要望が請求に、請求が責任追及に発展する前に、早めに向き合うことが何より大切です。
小さな不満のうちに気づく
クレームの多くは、小さな出来事や細かい不満から始まります。「期待した処置にもう一歩不満」「話をあまり聞いてくれない」といった小さな不満が積み重なり、心に澱のように溜まっていきます。だからこそ、こまめなコミュニケーションで小さな不満のうちに気づき、拾い上げることが、大きなクレームを防ぐ鍵になります。
クレームが起きたときの対応手順
実際にクレームが起きたときは、順序立てて対応することが解決への近道です。ここでは基本的な6つのステップを紹介します。
手順1:まず傾聴する(話をさえぎらない)
クレームを受けたら、まずは相手の話をさえぎらずに聞くことが大切です。利用者は感情が高ぶっていることが多く、こちらの話が届かない状態です。話を聞いてもらえるだけで気持ちが落ち着くことも多いため、相槌を打ちながら、何に不満を感じているのかをしっかり聞き出しましょう。傾聴は情報収集でもあります。
手順2:不快にさせたことを謝罪する
どちらに非があるにせよ、クレームが来るということは利用者にとって不利益なことが起きています。まずは不快な気持ちにさせてしまったことについて謝罪しましょう。ただし、後述するように事実確認ができていない段階で全面的に謝罪するのは避け、「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」というように、不快にさせた点に限定して謝罪するのが適切です。
手順3:事実関係を確認する(5W1H)
謝罪をしたうえで、事実関係を確認します。いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように、という5W1Hを意識して、何が起きたのかを正確に把握しましょう。利用者が何に不満を感じ、どのような対応を求めているのかを明確にすることが、適切な解決につながります。
手順4:原因をアセスメントする
傾聴と事実確認で得た情報をもとに、クレームの本質をアセスメントします。訴えている事象そのものを解決すればよいのか、ただ謝罪を求めているのか、あるいは実現の難しい要求なのか。看護師としての専門的な視点で原因を見極め、その結論を相手の気持ちに配慮しながら伝えていきます。
手順5:一緒に解決策を考える
合理的に説明しても納得してもらえない場合は、「相手と一緒に問題を解決する」という姿勢が有効です。解決策を考える段階で相手を巻き込むことで、それが「自分が考えた解決策」となり、納得してもらいやすくなります。この進め方は、その後のクレームの再発防止にもつながります。
手順6:感謝を伝えて締める
最後に大切なのが、クレームに対して感謝を伝えることです。「改善できる点を指摘していただきありがとうございました」と感謝を示すことで、相手の印象が良くなります。理不尽なクレームでない限り、多くは改善点を教えてくれているものです。そう捉えて本心から感謝できれば、相手の印象が良くなるだけでなく、自分自身のストレス軽減にもつながります。
クレーム対応で気をつけたい心構え・言葉遣い
対応の手順と同じくらい大切なのが、その際の心構えと言葉遣いです。ちょっとした言葉の選び方で、状況は良くも悪くもなります。
自己防衛・身内を擁護する言葉を避ける
「うちの職員も悪気はないんです」「精一杯やったんですけど」といった自己防衛や身内を擁護する言葉は、利用者の不満を軽視している印象を与えます。利用者は「理解してもらえない」と感じ、かえってトラブルが悪化しかねません。まずは相手の気持ちを受け止めることを優先し、言い訳から入らないことが大切です。
共感と理解を示す
クレームに対しては、共感と理解を示すことが信頼回復の鍵になります。「おっしゃる通りです」「ご不便をおかけして申し訳ありません」といった言葉で、利用者の立場や気持ちを理解していることを伝えましょう。共感を示すことで、利用者は自分の声が届いていると感じ、対話が前に進みます。
事実確認前の安易な全面謝罪はしない
特に電話での初期対応では、まだ事実確認ができていないことが多いものです。この段階で全面的に謝罪してしまうと、後で事実が異なっていた場合にトラブルに発展することがあります。感情に寄り添って「不快にさせたこと」には謝罪しつつ、事実確認をしてから具体的な対応を検討する、という順序を守りましょう。
感情的にならず落ち着いた態度で
クレームでは相手が感情的になっていることが多く、こちらも感情的になると相手のマイナス感情が増幅してしまいます。受ける側は落ち着いた態度を保つことが大切です。冷静さを失わず、穏やかに対応することで、相手の興奮も次第に収まっていきます。
電話でのクレーム対応のポイント
訪問看護では、電話でクレームを受ける場面も多くあります。電話は顔が見えない分、対応の難しさがあります。
電話は初期対応が信頼を左右する
電話を受けたスタッフは、そのステーションの「顔」になります。特にクレーム電話では、最初に受けたスタッフの初期対応が、その後の解決スピードを大きく左右します。誰が電話を取っても適切に対応できるよう、日頃から対応の基本を共有しておくことが重要です。
相手の話をさえぎらず傾聴する
電話でも、まずは相手の話をさえぎらずに最後まで聞くことが基本です。たとえ相手が間違っていると感じても、話を途中で止めず、こまめな相槌で聞いている姿勢を伝えましょう。話を聞いてもらえるだけで、相手の気持ちが落ち着くことも多くあります。
低めの声・聞き取りやすいスピードで話す
電話は声や話し方が印象を大きく左右します。通常より少し低めの声で、聞き取りやすいスピードでゆっくり話すことを心がけましょう。落ち着いたトーンで話すことで、相手にも冷静さが伝わり、対話がスムーズになります。
メモを取り、今後の対応を明確に伝える
事実関係を正確に把握し、担当者へ正しく伝えるために、メモを取りながら聞きましょう。電話の初期対応ではその場で解決できないことも多いため、「担当の者に確認いたしますので少々お時間をいただけますか」「〇時頃に改めてご連絡します」と、今後の対応を明確に伝えることが大切です。最後は連絡へのお礼を伝え、相手が電話を切ったことを確認してから切ります。
電話を切った後の共有スピードも大切
電話を受けた後、担当スタッフに引き継ぐ場合は、内容の正確さとともにスピードも重要です。担当者が訪問中であることも多いため、チャットツールなどを活用して、用件を素早く簡潔に伝えましょう。初期対応の速さが、その後の解決の速さにつながります。
要望のすべてに応えられないときの伝え方
利用者の要望すべてに100%応えることは、現実的には不可能です。応えられないときこそ、伝え方が重要になります。
なぜ応えられないのかを説明する
要望に応えられない場合は、その理由を利用者に丁寧に説明しましょう。制度上の制約、リソースや時間の問題、訪問看護の専門性や範囲を超える要望であることなど、具体的かつ分かりやすく伝えます。専門用語は避け、具体例を交えて説明することで、利用者は制約に納得し、より現実的な期待を持てるようになります。
応えるためにどう取り組んだかを説明する
要望に応えるために努力したことは、利用者からは見えにくいものです。「他職種と連携して実現を試みた」「代替案を検討した」など、どのような取り組みをしたかを説明しましょう。真剣に取り組んでくれたと感じてもらえれば、結果的に実現できなくても、利用者は状況を受け入れやすくなります。
どこまでなら応えられるのかを説明する
すべてに応えられなくても、「どこまでなら応えられるか」を明確にすることが大切です。スタッフ間で話し合い、対応できる範囲を定めたうえで、それを利用者に説明します。応えられる範囲が明確になれば、利用者も現実的な要望を持てるようになり、今後の関係もスムーズになります。
クレームを未然に防ぐ予防策
クレームは、起きてから対応するよりも、起きないように予防するほうが、利用者にとっても看護師にとっても望ましいものです。日頃からできる予防策を整理します。
契約時にサービス範囲を明確に説明する
多くのクレームは、サービス範囲への認識のズレから生まれます。契約時に、提供できるサービスの内容・回数・時間、費用の内訳、緊急時の対応などを詳しく説明し、双方で合意しておくことが最大の予防策です。分かりにくい点は、その場で質問してもらい解消しておくことが後のトラブルを防ぎます。
「できること・できないこと」を共有しておく
訪問看護は家事代行や便利屋ではなく、制度上できることとできないことの線引きがあります。「利用者本人の療養に必要なケアはできるが、家族の分の家事はできない」「時間外対応は緊急時のみ」といったことを、あらかじめ丁寧に共有しておきましょう。時間外・夜間の対応範囲については「訪問看護のオンコール・夜間対応とは?|内容・頻度・手当・負担を軽減する方法を徹底解説」もあわせてご覧ください。この線引きを理解してもらうことで、「冷たい」「融通が利かない」という誤解を防げます。
こまめなコミュニケーションで小さな不満を拾う
クレームは小さな不満の積み重ねから生まれます。だからこそ、日頃からこまめにコミュニケーションを取り、「どう思いますか」「何か気になる点はありますか」と利用者の声を確認することが有効です。小さな違和感のうちに拾い上げられれば、大きな不満に発展する前に解消できます。
対応をステーション内で統一する
スタッフによって対応が異なると、「前の人はしてくれたのに」と不満を招きます。お茶を出されたときの対応、訪問時間を過ぎて引き留められたときの対応、契約外のサービスを頼まれたときの対応などを、あらかじめステーション内で統一しておきましょう。対応の一貫性が、利用者の安心につながります。
遅刻・変更時は早めに連絡する
訪問時間の遅れや変更は避けられないこともありますが、早めに連絡を入れるだけで不満を大きく減らせます。「遅れる場合は予定時刻の前に必ず連絡する」というルールを徹底しましょう。利用者の生活リズムを尊重している姿勢が伝われば、多少の変更も受け入れてもらいやすくなります。
組織で取り組むクレーム対応の体制づくり
クレーム対応は、担当者一人の努力に任せるものではありません。組織として体制を整えておくことが、質の高い対応につながります。
責任者・一次対応の役割を決めておく
クレームが起きたとき、誰が責任者として対応するのか、一次対応でどこまで対応してよいのかを、日頃から取り決めておきましょう。対応の権限や基準が明確であれば、いざというときにスムーズに動けます。すぐに謝罪や対応に動ける体制を整えておくことが大切です。
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を徹底する
クレームを担当者一人に抱えさせず、必ず上司や仲間に報告・連絡・相談することを徹底しましょう。共有することで再発防止にもサービス向上にもつながります。報告の際は、自己保身に走ったり騒ぎ立てたりせず、事実だけを結論から伝えるよう、日頃から指導しておくと効果的です。
一人に抱え込ませない
クレーム対応は精神的な負担が大きいものです。一次対応者が一人ですべてを終わらせる体制は望ましくありません。チームで支え合い、必要に応じて管理者が対応を引き継ぐ仕組みを整えることで、スタッフの負担を軽減できます。一人に抱え込ませないことが、対応の質と職員の定着の両方に効いてきます。
情報共有の仕組みを整える
訪問看護は各地に散らばって働くため、全員が集まって情報共有する時間が限られています。訪問看護師の一日の動き方については「訪問看護師の一日のスケジュール|訪問件数・移動・オンコールの実態を徹底解説」で紹介しています。電話対応など訪問記録以外の細かな情報も含めて、タイムリーに共有できる仕組みを整えることが、クレームの予防と対応に役立ちます。情報共有の不足が、対応のばらつきやクレームにつながることを意識しておきましょう。
クレーム対応マニュアルを作成・見直しする
クレームが起きた際の対応手順や改善策をまとめたマニュアルを作成し、定期的に見直すことも有効です。過去のクレームを記録として蓄積し、対応のノウハウを組織に残すことで、誰が対応しても一定の質を保てるようになります。
再発防止までがクレーム対応
クレームは、その場で対応して終わりではありません。同じことを繰り返さないための再発防止まで含めて、クレーム対応です。
原因をチームで振り返る
クレームが起きたら、何が原因だったのかをチーム全体で振り返りましょう。個人の責任を追及するのではなく、業務の流れやルール、情報共有の仕組みに問題がなかったかを検証します。原因を組織の課題として捉えることが、根本的な改善につながります。
記録を残し、スタッフ全体に周知する
発生したクレームと、その対応・改善策を記録に残し、スタッフ全体に周知しましょう。同じクレームを繰り返さないためには、一人の経験をチーム全体の学びに変えることが欠かせません。統一した改善案や再発防止策を共有することで、スタッフ一人ひとりが責任を持って業務にあたれるようになります。
改善策を実行し、効果を確認する
改善策は、立てるだけでなく実行し、効果を確認することが大切です。利用者に改善策を説明して同意を得たうえで実施し、その後の状況を確認します。実行と検証を繰り返すことで、サービスの質は着実に向上していきます。
スタッフを守るという視点も忘れない
クレーム対応を語るとき、見落とされがちなのが、対応にあたるスタッフ自身を守るという視点です。ここは特に管理者に意識してほしい点です。
理不尽なクレーム・ハラスメントもある
クレームのなかには、こちらが適切に対応していても寄せられる理不尽なものや、電話口で執拗に文句を言う、過度な謝罪を求める、つきまとうといったハラスメントに発展するケースもあります。すべてのクレームを「改善点の指摘」として受け止める必要はありません。理不尽な要求や度を越えた言動に対しては、組織として毅然と対応し、スタッフを守る姿勢が必要です。
感謝の姿勢が自身のストレス軽減にもつながる
正当なクレームに対しては、「改善点を教えてもらえた」と捉えて感謝することが、相手の印象を良くするだけでなく、対応するスタッフ自身のストレス軽減にもつながります。クレームを一方的な攻撃と受け取ると疲弊しますが、成長の機会と捉え直せると、心の負担が軽くなります。この捉え方を組織で共有しておくとよいでしょう。
一人で抱え込ませず組織で守る
クレーム対応で心が折れそうになる看護師も少なくありません。だからこそ、一人で抱え込ませず、組織全体で対応し、支える体制が重要です。つらい対応をしたスタッフには声をかけ、必要なら対応を代わる。スタッフを守る文化があるステーションは、結果として離職も少なく、サービスの質も安定します。
利用者・家族が相談できる窓口(参考)
参考までに、利用者・家族側がクレームや不満を相談できる窓口も整理しておきます。看護師・管理者としても、どこに相談が行くのかを知っておくと対応の助けになります。
訪問看護ステーションの管理者
利用者にとって最も身近な相談先が、契約している訪問看護ステーションの管理者です。担当看護師に伝えても改善が見られない場合や、担当者本人に関わる問題の場合、管理者に相談することで解決に向かうことが多くあります。管理者は、客観的に話を聞き、事実確認のうえで担当変更やケア内容の見直しなどを検討します。
ケアマネジャー
介護保険サービスを利用している場合、ケアプランを作成するケアマネジャーへの相談も有効です。ケアマネジャーは利用者と事業所の間に立つ中立的な存在で、利用者の意向を汲み取って事業所に改善を伝えたり、話し合いの調整役を担ったりします。ケアマネジャーとの関係づくりについては、「訪問看護ステーションがケアマネと関係構築する方法|選ばれるステーションになるための営業戦略」もあわせてご覧ください。
市町村・国保連などの公的窓口
事業所やケアマネジャーに相談しても解決しない場合は、市町村の介護保険担当窓口や、国民健康保険団体連合会(国保連)の苦情相談窓口といった公的機関に相談する選択肢もあります。これらの機関は中立的な立場から調査や助言を行います。看護師・管理者としては、こうした外部窓口に相談が行く前に、事業所内で誠実に解決する姿勢が求められます。
よくある質問
理不尽なクレームにはどう対応すればよいですか?
まずは傾聴し、共感を示す基本は変わりませんが、明らかに理不尽な要求や、ハラスメントに発展するような言動に対しては、すべてを受け入れる必要はありません。担当者一人で対応せず、必ず管理者や組織全体で対応方針を決め、毅然とした態度で臨むことが大切です。スタッフを守る視点を持って組織で対応しましょう。
クレームで担当変更を求められたら応じるべきですか?
訪問看護では担当者との相性が満足度に大きく影響するため、担当変更の希望には柔軟に応じることが望ましいとされています。相性の問題はどちらが悪いというものではなく、我慢を続けさせることは利用者にもスタッフにも良くありません。管理者が間に入り、可能な範囲で理由を確認したうえで、次の人選の参考にしながら対応しましょう。
クレームをスタッフ個人の責任にしてよいですか?
望ましくありません。クレームの原因は、個人の対応だけでなく、情報共有の不足や体制の問題など、組織的な要因が絡んでいることが多いものです。個人を責めるのではなく、チーム全体で原因を振り返り、再発防止に取り組む姿勢が大切です。個人の責任にすると、報告をためらう風土が生まれ、かえってクレームが表面化しにくくなります。
クレームを減らすには何から始めればよいですか?
最も効果的なのは、契約時にサービス範囲や「できること・できないこと」を明確に説明し、期待値のズレをなくすことです。あわせて、日頃のこまめなコミュニケーションで小さな不満を拾い上げ、遅刻・変更時には早めに連絡する習慣をつけましょう。予防の基本は、認識のズレを生まないことと、小さな不満のうちに気づくことです。
まとめ
訪問看護のクレームは、利用者の生活の場に入り、一対一の密接な関係を築く仕事だからこそ起きやすいものです。その多くは、サービス範囲への認識のズレや、小さな不満の積み重ねから生まれます。しかし、クレームは「利用者の心の声」であり、適切に向き合えば、かえって信頼関係を深めるチャンスにもなります。
対応の基本は、傾聴し、不快にさせたことを謝罪し、事実を確認し、一緒に解決策を考え、感謝を伝えること。そして、自己防衛の言葉を避け、共感を示す姿勢が欠かせません。さらに、契約時の説明やこまめなコミュニケーションによる予防、組織としての体制づくり、再発防止までを一貫して行うことで、クレームはサービスの質を高める機会に変わります。同時に、理不尽なクレームからスタッフを守る視点も忘れてはなりません。クレーム対応は個人ではなく、組織で取り組むものなのです。
クレームの多くは「サービス範囲への認識のズレ」から生まれます。だからこそ、提供できるケアの内容や「できること・できないこと」を、ホームページで事前に分かりやすく伝えておくことは、有効なクレーム予防策になります。平安ラボは、医療・介護事業者向けのホームページ制作を月額9,800円〜(初期費用0円)でご提供しています。「サービス内容を利用者・家族に正しく伝えたい」「安心して利用してもらえる情報発信をしたい」とお考えの訪問看護ステーションの方は、お気軽にご相談ください。
https://heian-lab.com/
コメント