訪問看護ステーションの廃業の実態
開設数と廃業数は同時に増えている
訪問看護ステーションは高齢化の進展とともに需要が拡大し、新規開設数は年々増加しています。一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、2024年度(令和6年度)の新規開設は2,487件、稼働している事業所数は18,754件(2025年4月1日時点)となっています。事業所数自体はこの10年ほどで大きく増加しており、在宅医療のニーズの高まりを裏付けています。
しかし同じ調査では、廃止件数が701件(2023年度)から886件(2024年度)へと、わずか1年で大きく増加していることも示されています。「開設ラッシュ」と「廃業の増加」が同時に進行しているのが、訪問看護業界の現在の実態です。事業所数が増えているからといって、業界全体が安定して成長しているとは言い切れない状況があります。
廃業率は他業種と比べて高いのか
訪問看護ステーションの廃業率について、過去の調査では稼働事業所数に対して廃業した事業所数の割合が3%台という数字が報告されています。これを他業種と比較する際は、調査対象年・算出方法が異なる点に注意が必要ですが、建設業・製造業・サービス業など他業種の廃業率も同程度の水準で推移していることが、中小企業庁の調査などから確認できます。
つまり訪問看護ステーションの廃業率が「他業種より際立って高い」と単純に結論づけることは難しく、業種間の比較は調査年・算出方法によって結果が変動しやすいことを理解しておく必要があります。一方で、医療福祉事業全体の中で見ると相対的に廃業率が高い傾向が指摘されており、医療・介護分野の中では経営の難易度が高い業態であることは間違いありません。
地域差で見る廃業率の違い
廃業率は開業する地域によって大きく異なります。都市部では訪問看護ステーションの数自体が多く、利用者・人材の獲得競争が激しいため、競争に敗れて廃業に至るケースが見られます。一方、地方や中山間地域では、そもそも利用者の絶対数が少なく、訪問にかかる移動時間・コストが大きいことから、収益を確保しにくいという別の構造的な課題があります。
都市部の「競争激化型」の廃業リスクと、地方の「採算が取りにくい型」の廃業リスクは、原因が異なるため対策も異なります。自分が開業を検討している地域がどちらの傾向に近いかを事前に把握することが、リスク管理の第一歩です。
「100件開業して100件廃業する」と言われる理由
訪問看護業界では「100件開業すれば、別の100件が廃業している」という感覚値が経営者・コンサルタントの間で語られることがあります。これは統計的に厳密な数字ではありませんが、開設ラッシュと廃業の同時進行という実態を端的に表現したものと言えます。
この背景には、看護師としての臨床スキルと、事業を経営するスキルが全く別物であるという根本的な課題があります。看護のスキルが高く、利用者に評価される訪問看護を提供できる管理者であっても、資金繰り・人員計画・営業活動といった経営面のスキルが不足していると、事業として立ち行かなくなることがあります。訪問看護に限らず介護事業全般に共通する課題ですが、訪問看護は特に少人数で開業するケースが多いため、このギャップが廃業に直結しやすい構造があります。
訪問看護ステーションが廃業に至る根本的な原因
人員基準を満たせなくなる人材不足
訪問看護ステーションには、看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)を常勤換算で2.5人以上配置することが法令上義務づけられています。この基準を満たせなくなると、行政からの指導・改善勧告の対象となり、最終的には指定取り消しに至るリスクがあります。
全国的な看護師不足の中、訪問看護に従事する看護師の数は限られています。厚生労働省の資料でも看護職員の有効求人倍率が他職業全体より高く、人手不足傾向にあることが示されています。小規模なステーションほど、スタッフが数名退職するだけで基準を満たせなくなるリスクが高く、これが廃業の直接的なトリガーになるケースは少なくありません。
稼働率の低さが資金を圧迫する
訪問看護ステーションの収益は、介護保険・医療保険からの報酬が中心です。訪問件数に応じて売上が決まる構造であるため、稼働率(実際に訪問できている件数の割合)が低いと、固定費(人件費・事務所賃料など)を回収できず、資金が圧迫されます。
利用者の状態変化(入院・看取り・状態の安定化による利用終了など)によって、利用者数は常に変動します。特に冬場は体調を崩す利用者が増え、入院による利用中断が起きやすいなど、季節要因による稼働率の変動も経営上の悩みの一つです。新規利用者の確保が滞ると、稼働率の低下が続き、経営を直撃します。
報酬制度の複雑さによる算定漏れ
訪問看護の報酬は、介護保険・医療保険の両方にまたがる複雑な算定ルールに基づいています。各種加算の算定要件は細かく、専任の事務スタッフを配置できない小規模事業所では、算定漏れ・請求ミスによる返戻対応に多くの時間と労力を取られることがあります。
本来算定できるはずの加算を取得できていない状態が続くと、同じ業務量でも収益が伸びず、経営を圧迫する要因になります。報酬改定のたびに算定ルールが変わるため、最新情報を継続的にキャッチアップする体制も必要です。
開業資金・運転資金の計画不足
訪問看護ステーションの開業には、最小規模でも初期費用と運転資金を合わせて相当な資金が必要とされています。開業後しばらくは利用者が少なく赤字経営が続くことが一般的であり、この期間を乗り切るための運転資金が不足すると、軌道に乗る前に資金が底をついてしまいます。
特に注意すべきは、採用に想定以上のコストがかかるケースです。人材紹介サービスを利用して採用が決まった場合、紹介手数料として数十万円〜100万円程度かかることがあり、これを資金計画に織り込んでいないと予算が大きく狂うことがあります。また物価高・人件費の上昇など外部環境の変化も、当初の計画とのズレを生む要因になります。
競合の増加による利用者の取り合い
訪問看護ステーションの開設主体は営利法人(株式会社など)が大半を占めるようになり、新規参入が増えたことで、地域内での競争が激しくなっています。特に都市部では同じ地域内に複数のステーションが乱立し、利用者・人材の両方で取り合いが発生します。
独自の強みがないステーションは、こうした競争の中で埋没してしまい、ケアマネージャーからの紹介を得にくくなります。開設直後は知名度がなく利用者が集まりにくいため、稼働率が上がる前に資金が尽きてしまうという典型的な廃業パターンに陥りやすくなります。
管理者の負担過多と後継者不在
訪問看護ステーションの管理者は、人員配置・勤務表管理・算定業務・行政対応・スタッフ育成・営業活動など、非常に多岐にわたる業務を少人数で担っていることが多いです。この負担の重さが、管理者自身の体力的・精神的な限界を招くことがあります。
また、経営が黒字であっても「後継者が見つからない」「これ以上責任を負うのは難しい」という理由から、計画的に事業を畳むケースも一定数存在します。統計上はこれも「廃止」として数えられるため、必ずしも経営不振だけが廃業の理由ではないことも理解しておく必要があります。
廃業しやすいステーションに共通する傾向
独自の強み・専門性がない
「ターミナルケアに強い」「精神科訪問看護に対応している」「小児の在宅医療に対応している」など、明確な強み・専門性を持つステーションは、ケアマネージャーから「この症状ならこのステーションに紹介しよう」と選ばれやすくなります。一方、強みが不明確なステーションは、競合との差別化ができず、紹介の優先順位が下がりがちです。
人材が定着せず離職が連鎖する
スタッフの離職は個人的な事情によるものもありますが、業務負担の偏り・職場環境の問題・管理者とのコミュニケーション不足が原因の場合、離職が連鎖的に発生することがあります。一人が辞めると残ったスタッフの負担が増え、それがさらなる離職を招くという悪循環は、人員基準を満たせなくなるリスクに直結する深刻な問題です。
制度改定への対応が後手に回る
介護報酬・診療報酬は定期的に改定されます。改定内容に応じて算定できる加算・必要な体制が変わるため、情報収集と体制整備を速やかに行うことが求められます。改定への対応が後手に回り、本来算定できる加算を見逃し続けるステーションは、収益機会を失い続けることになります。
地域との関係構築ができていない
訪問看護ステーションへの利用者紹介の多くはケアマネージャー経由です。地域のケアマネージャー・医療機関・地域包括支援センターとの関係構築ができていないステーションは、紹介の機会自体が少なく、利用者数を伸ばすことが困難になります。
情報発信が不足しスタッフ・利用者を獲得できない
ホームページがない・情報が不十分なステーションは、看護師の採用活動でも利用者・ケアマネからの認知でも不利な状況に置かれます。求職者は応募前に必ずホームページを確認し、ケアマネージャーも紹介の判断材料としてホームページの情報を参考にします。情報発信を軽視しているステーションは、見えないところで採用・集客の機会を損失し続けている可能性があります。
廃業を防ぐための具体的な対策
リスクを織り込んだ資金計画を立てる
開業時には「想定外の事態が起きる」ことを前提に資金計画を立てることが重要です。採用が思うように進まず人材紹介サービスの手数料が発生する可能性・物価高による消耗品費の上昇・自然災害や感染症の流行による利用者の急減など、様々なリスクシナリオを想定し、余裕を持った運転資金を確保しておくことが、開業後の資金繰りの安定につながります。
「ずっと働きたい」と思える職場環境をつくる
採用したスタッフが定着し、長く働き続けたいと思える職場環境を整えることは、人員基準を維持し続ける上で最も重要な対策です。スタッフの声に耳を傾け、業務負担の偏りを是正し、働きやすいルール・体制に改善していく姿勢が、離職率の低下と安定した人員配置につながります。採用時にステーションの理念に共感できる人材を選ぶことも、長期的な定着率向上の鍵です。
地域のケアマネ・医療機関との関係を構築する
開業前から近隣の居宅介護支援事業所・医療機関・地域包括支援センターへの挨拶まわりを行い、自社の強み・対応可能な疾患・スタッフ体制を伝えておくことが、安定した利用者紹介の基盤になります。訪問スケジュールに空きが出た際に速やかに地域へ伝える体制を整えておくことも、稼働率を維持する上で重要です。日々の丁寧な訪問看護の提供を積み重ねることで、地域から「信頼できるステーション」として評価されるようになります。
業務効率化でコストと残業を削減する
紙の記録・手作業での請求業務は、残業の増加・コストの増大に直結します。電子カルテの導入により、訪問先でその場で記録を入力できるようになり、請求業務における実績確認の手間も大幅に削減されます。移動時間を短縮した訪問スケジュールの組み方も、コスト削減と従業員の負担軽減の両方に効果があります。業務効率化によって生まれた時間を、営業活動やスタッフとの面談に充てることができれば、経営の安定にさらに貢献します。
強み・専門性を明確にして差別化する
競合が増える中で生き残るためには、自社の強み・専門性を明確に打ち出すことが不可欠です。ターミナルケア・精神科訪問看護・小児在宅医療・神経難病対応など、特定の領域に強みを持つことで、ケアマネージャーが「この利用者にはこのステーションが適している」と判断しやすくなります。強みを明確にすることは、採用活動においても「このステーションで働く意味」を求職者に伝える上で効果的です。
情報発信を仕組み化する
ホームページ・SNSを活用した情報発信を仕組み化することで、利用者・ケアマネ・求職者への認知を継続的に高めることができます。空き状況の案内・対応可能な疾患・スタッフの紹介・採用情報などを定期的に更新することで、地域における存在感と信頼性を高め続けることができます。情報発信は一度作って終わりではなく、継続的に運用していく仕組みとして捉えることが重要です。
廃業リスクと向き合う上で見落としやすい視点
黒字でも「畳む」という選択をするケース
廃業の統計には、経営不振による廃業だけでなく、黒字経営でありながら後継者不在・管理者の引退などを理由に計画的に事業を終える「畳む」ケースも含まれています。すべての廃業を「失敗」と捉えるのではなく、事業承継の準備(次世代の管理者候補の育成、法人としての事業継続体制の構築など)を早期から進めることも、長期的な経営の安定には重要な視点です。
稼働率と人員配置のバランス管理
人員基準を満たすために看護師を増やしても、それに見合う訪問件数が確保できなければ、人件費が経営を圧迫します。逆に訪問件数が増えても看護師の数が不足していれば、人員基準違反のリスクと現場の過重労働を招きます。「看護師数×訪問件数」のバランスを常に管理し、採算が取れる範囲で人員計画と利用者獲得を同時に進めていく視点が欠かせません。
地域内での事業所同士の連携という選択肢
一つの事業所だけで在宅療養のすべてを抱え込もうとすると、特に医療ニーズの高い利用者への対応で無理が生じることがあります。同じ地域の他の訪問看護ステーションとオンコール当番を共同化する・研修を共同で開催するなど、競合関係にある事業所同士でも一定の連携を図ることで、限られた人材・資源でも持続可能な体制を作れる可能性があります。地域全体で「続けられる訪問看護」を支えるという視点も、今後ますます重要になっていくと考えられます。
開業前に確認しておくべきチェックポイント
採算が合う「看護師数×訪問件数」のラインを把握する
開業前に、何人の看護師を雇用し、1日あたり何件の訪問を行えば収支が成り立つのかという採算ラインを具体的に計算しておくことが重要です。人件費・事務所賃料・消耗品費などの固定費・変動費を洗い出し、月間で必要な売上目標を明確にしておくことで、開業後の経営判断の基準を持つことができます。
開業エリアの競合状況・人口動態を調査する
開業を検討しているエリアに既に何件の訪問看護ステーションが存在するか・近隣の医療機関・居宅介護支援事業所の数・地域の人口動態(高齢化率・将来的な人口推移)を事前に調査しておくことが、需要と競争の見通しを立てる上で不可欠です。同じエリアに競合が多すぎる場合は、独自の強みを持って差別化する戦略が特に重要になります。
資金計画に「想定外」の余地を持たせる
開業資金・運転資金を計算する際は、最低限必要な金額だけでなく、想定外の事態(採用の遅れ、利用者数の伸び悩み、物価上昇など)に対応できる余裕を持たせることが重要です。「ギリギリの資金計画で開業する」という選択は、想定外の事態が一つ起きるだけで経営が傾くリスクを高めます。
よくある質問
訪問看護ステーションの廃業率は何%ですか?
調査年・算出方法によって数字は異なりますが、過去の一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査では稼働事業所数に対して数%台の廃業率が報告されています。また廃止件数自体は年々増加傾向にあることが最新の調査でも示されています。正確な最新の数字を知りたい場合は、全国訪問看護事業協会が毎年公表している「訪問看護ステーション数調査結果」を確認することをおすすめします。
開業して何年目が最も廃業しやすいですか?
明確な統計データはありませんが、一般的に開業後1〜3年目は利用者が十分に集まっておらず、資金繰りが最も厳しい時期と言われています。この時期を乗り切るための運転資金の確保と、地域での信頼構築が特に重要になります。
小規模ステーションは廃業しやすいですか?
規模が小さいほど、スタッフの退職一つで人員基準を満たせなくなるリスクが高く、また固定費を分散しにくいため、廃業リスクが相対的に高くなる傾向があります。ただし小規模であっても、明確な強み・専門性を持ち、地域との関係構築ができているステーションは、安定した経営を続けているケースも多くあります。
廃業しそうな場合、利用者にはどう影響しますか?
事業所が廃業する場合、利用者は新しい訪問看護ステーションを探す必要が生じます。一時的にサービスが滞ったり、慣れた看護師が変わることへの不安が生じたりすることがあります。利用者・家族としては、ケアマネージャーと連携して「第2候補」となる事業所の情報を事前に把握しておくことが、もしもの際のリスクに備える上で有効です。
まとめ
訪問看護ステーションは需要拡大とともに開設数が増え続けていますが、同時に廃業件数も増加している業界です。廃業の主な原因は人材不足・稼働率の低さ・報酬制度の複雑さ・資金計画の不足・競合の増加・管理者の負担過多など、複数の要因が絡み合っています。
これらのリスクに対しては、余裕を持った資金計画・働きやすい職場環境の構築・地域との関係構築・業務効率化・強みの明確化・継続的な情報発信といった対策を組み合わせることで、廃業リスクを下げ、持続可能な経営を実現することができます。看護のスキルと経営のスキルは別物であるという認識を持ち、開業前から経営面の準備を入念に行うことが、長く地域に必要とされる訪問看護ステーションを作る第一歩です。
訪問看護ステーションの経営において、地域からの信頼を得るための情報発信は欠かせません。ホームページを通じてスタッフの紹介・対応可能な疾患・空き状況などを発信し続けることで、ケアマネージャーからの紹介・求職者からの応募の両方を継続的に獲得する仕組みを作ることができます。平安ラボでは、訪問看護ステーション向けのホームページ制作を月額9,800円〜・初期費用0円でご提供しています。経営の安定化に向けた情報発信の整備をお考えの方は、お気軽にご相談ください。
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