訪問看護ステーションの経営において、「加算」を正しく理解し、算定することは、収益を左右する重要なポイントです。加算は、基本の報酬に上乗せされる報酬で、適切に算定できれば事業所の収益向上につながります。しかし、加算の種類は多く、算定要件も複雑なうえ、届出が必要なものもあり、「よく分からない」「取りこぼしているかもしれない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、訪問看護の加算について、そもそも加算とは何かという基本から、介護保険・医療保険それぞれの加算の分類と概要、算定を取りこぼさないための実務的なポイント、そして注意点までを、分かりやすく解説します。ただし、加算の単位数や算定要件は、診療報酬・介護報酬の改定によって変わります。この記事では制度の全体像と考え方をお伝えしますが、実際に算定する際は、必ず最新の告示・通知や、関係機関、請求ソフトなどで正確な情報を確認してください。個別の加算の細かい単位数は、変わりやすいため本記事では扱わず、分類と趣旨を中心に解説します。
訪問看護の「加算」とは
まず、加算とは何かという基本を押さえましょう。加算の仕組みを理解することが、正しい算定の第一歩です。
基本報酬に上乗せされる報酬
加算とは、訪問看護の基本となる報酬(基本療養費や訪問看護費)に、一定の条件を満たした場合に上乗せして算定できる報酬のことです。特定の体制を整えていたり、特別なケアを提供したり、特定の状況で訪問したりした場合に、基本報酬に加えて算定できます。加算は、提供したサービスや整えた体制に応じた、追加の評価といえます。
なぜ加算という仕組みがあるのか
加算という仕組みがあるのは、手厚い体制やサービスを評価し、質の高いケアを促すためです。たとえば、24時間対応の体制を整えたり、ターミナルケアを提供したり、緊急時に対応したりすることは、事業所にとって負担が大きいものです。こうした取り組みを報酬で評価することで、質の高いサービスの提供を後押しする狙いがあります。加算は、サービスの質を保ち、高める仕組みでもあります。
加算は事業所の収益に関わる
加算は、事業所の収益に直接関わります。算定できる加算を正しく算定できれば収益は向上し、逆に取りこぼせば、本来得られるはずの報酬を逃すことになります。同じサービスを提供していても、加算を適切に算定しているかどうかで、収益に差が生まれます。だからこそ、加算を正しく理解することが、経営上とても重要なのです。事業所の収益については、「訪問看護ステーションの1人あたり売上の目安は?|計算方法・損益分岐点・収益改善のポイントを解説」もあわせてご覧ください。
加算を理解するための基本
加算を理解するうえで、押さえておきたい基本的な枠組みがあります。全体像をつかみましょう。
介護保険と医療保険で体系が異なる
訪問看護は、介護保険と医療保険の両方で提供されますが、加算の体系はそれぞれで異なります。介護保険には介護保険の加算が、医療保険には医療保険の加算があり、名称や要件、算定の仕組みが違います。まずは、「介護保険の加算」と「医療保険の加算」は別の体系だと理解しておくことが大切です。どちらの保険が適用されるかで、算定できる加算も変わります。介護保険と医療保険の違いについては、「訪問看護は介護保険と医療保険どちらが使える?|適用条件・優先順位・費用の違いを徹底解説」で解説しています。
「届出が必要な加算」と「その都度算定する加算」
加算には、あらかじめ行政への届出が必要なものと、要件を満たせばその都度算定できるものがあります。届出が必要な加算は、体制を整えて届け出ることではじめて算定できるようになります。一方、特定の状況で提供したケアに応じて算定する加算は、その都度、要件を満たしていれば算定できます。この違いを理解しておくことが、算定の第一歩です。
単位数・要件は改定で変わる
最も重要な注意点として、加算の単位数(点数)や算定要件は、診療報酬・介護報酬の改定によって変わります。数年ごとに行われる改定で、加算が新設されたり、要件が見直されたり、廃止されたりすることがあります。そのため、加算の情報は「最新のものを確認する」ことが絶対に必要です。過去の情報や古い資料のままでは、誤った算定につながる恐れがあります。
介護保険の主な加算(分類と概要)
介護保険の訪問看護における加算を、分類ごとに概要を紹介します。個別の単位数は改定で変わるため、ここでは種類と趣旨を中心にお伝えします。
体制に関する加算
事業所が特定の体制を整えている場合に算定できる加算があります。たとえば、緊急時の対応体制を整えている場合や、サービス提供体制を強化している場合などに関する加算です。これらは、事業所として整えた体制を評価するもので、多くは事前の届出が必要です。どのような体制を整えるかは、事業所の方針に関わります。
サービス提供時の加算
実際のサービス提供の状況に応じて算定できる加算もあります。たとえば、早朝・夜間・深夜に訪問した場合や、長時間の訪問を行った場合、複数名で訪問した場合などに関する加算です。提供したサービスの状況に応じて、その都度算定を検討します。要件を正しく理解し、算定漏れを防ぐことが大切です。
ターミナル・看取りに関する加算
終末期のケアや看取りに関わる加算もあります。在宅での看取りを支える手厚いケアを評価するものです。ターミナルケアは、利用者やご家族にとって非常に重要な支援であり、それを提供した場合に算定できる加算が設けられています。ターミナルケアについては、「訪問看護のターミナルケア・看取りとは?|在宅での最期を支える役割と家族へのケアを解説」もあわせてご覧ください。
その他の加算
このほかにも、特定の状態の利用者へのケアや、特別な管理を要する場合など、さまざまな加算があります。介護保険の加算は多岐にわたるため、自事業所が算定できるものを漏れなく把握することが大切です。詳しい種類と要件は、最新の介護報酬に関する告示・通知で確認してください。
医療保険の主な加算(分類と概要)
医療保険の訪問看護における加算も、分類ごとに概要を紹介します。こちらも個別の点数は改定で変わるため、種類と趣旨を中心にお伝えします。
訪問看護管理療養費に関する加算
医療保険の訪問看護では、訪問看護管理療養費に関連して算定できる加算があります。24時間対応の体制に関するものや、特別な管理を必要とする利用者へのケアに関するものなどです。事業所の体制や、利用者の状態に応じて算定を検討します。多くは体制の届出や、要件の確認が必要です。
訪問時の状況に応じた加算
訪問した時間帯や状況に応じて算定できる加算もあります。早朝・夜間・深夜の訪問や、緊急の訪問、長時間の訪問、複数名での訪問などに関する加算です。介護保険と同様に、提供したサービスの状況に応じて、その都度算定を検討します。要件を満たしているかの確認が重要です。
ターミナルケアに関する加算
医療保険にも、終末期のケアに関わる加算があります。在宅での看取りを支えるケアを評価するものです。医療保険で訪問看護を利用する終末期の利用者に、手厚いケアを提供した場合に算定を検討します。要件や算定の考え方は、最新の診療報酬に関する情報で確認しましょう。
その他の加算
このほかにも、退院時の共同指導や、特定の医療的な管理、乳幼児へのケアなど、さまざまな加算があります。医療保険の加算も種類が多いため、自事業所が関わる利用者に応じて、算定できる加算を把握することが大切です。正確な内容は、最新の告示・通知でご確認ください。
開業初期から算定しやすい加算・体制が必要な加算
加算のなかには、開業初期から比較的算定しやすいものと、体制を整える必要があるものがあります。この違いを理解しておきましょう。
比較的算定しやすい加算
提供したサービスの状況に応じて算定する加算のなかには、開業初期から比較的算定しやすいものもあります。要件を満たしていれば算定できるため、体制を大きく整えなくても対応しやすいものです。まずはこうした算定しやすい加算から、確実に算定していくことが、収益の土台になります。
体制整備・届出が必要な加算
一方、事前の体制整備や届出が必要な加算は、準備が整ってから算定できるようになります。たとえば、24時間対応の体制や、特定のサービス提供体制などです。これらは、人員や体制を整え、届出を行うことではじめて算定できます。開業してすぐには難しくても、体制を整えることで、算定できる加算を増やしていけます。
段階的に体制を整えていく
加算の算定は、開業初期にすべてを算定しようとするのではなく、段階的に体制を整えながら、算定できる加算を増やしていくのが現実的です。事業所の成長に合わせて、体制整備が必要な加算にも取り組んでいきましょう。計画的に体制を整えることが、収益の向上につながります。開業については、「訪問看護ステーション開業に必要なもの完全ガイド|法人設立から初日訪問までの全ステップ」もあわせてご覧ください。
加算と「別表7・8」「特別指示書」などの関係
加算は、利用者の状態や、他の制度と関わり合っています。制度全体のなかで加算を理解しましょう。
状態・疾病によって算定できる加算がある
利用者の状態や疾病によって、算定できる加算や、訪問の要件が変わることがあります。たとえば、別表7に該当する疾病や、別表8に該当する状態、特別訪問看護指示書が出ている場合などは、頻回の訪問や複数名の訪問などが可能になり、それに応じた算定を検討することになります。加算は、こうした制度と密接に関わっています。別表7・8については、「訪問看護の別表7・別表8とは?|対象疾病・状態と該当すると変わることをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
制度全体のなかで加算を理解する
加算だけを単独で理解しようとするより、訪問看護の制度全体のなかで理解することが大切です。訪問回数のルール、別表7・8、特別訪問看護指示書といった制度と、加算は関わり合っています。制度全体を理解することで、どの利用者にどの加算が算定できるかが、より正確に把握できるようになります。特別訪問看護指示書については、「特別訪問看護指示書とは?|交付条件・期間・通常の指示書との違いをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
加算を取りこぼさないためのポイント
算定できる加算を取りこぼさないためには、いくつかの実務的なポイントがあります。これらを押さえて、算定漏れを防ぎましょう。
届出の漏れを防ぐ
届出が必要な加算は、届出をしなければ算定できません。算定できる体制を整えているのに、届出を忘れているために算定できていない、というのは大きな損失です。算定したい加算に届出が必要かを確認し、漏れなく届け出ることが大切です。届出の状況を定期的に確認しましょう。
記録を整備する
加算の算定には、その根拠となる記録が必要です。要件を満たしていても、それを裏付ける記録がなければ、算定が認められないことがあります。加算の算定要件を満たしていることが分かるよう、記録を適切に整備することが重要です。記録は、算定の正当性を示す証拠になります。記録の効率化については、「訪問看護の記録効率化・ICT化|負担を減らす進め方とツール・注意点を徹底解説」も参考になります。
スタッフ間で算定要件を共有する
加算を取りこぼさないためには、算定要件をスタッフ間で共有することが大切です。現場のスタッフが算定要件を理解していれば、算定できる状況を見逃さず、必要な記録を残せます。事務担当だけでなく、現場のスタッフも加算への理解を持つことで、事業所全体で算定漏れを防げます。
請求ソフトの設定を見直す
レセプト(請求)ソフトを使っている場合、その設定が最新の制度に合っているか、定期的に見直すことも大切です。改定に対応した設定になっていないと、算定漏れや誤りにつながります。ソフトの設定を適切に保つことで、正確な請求ができます。
算定要件を正しく理解する
そもそも、加算の算定要件を正しく理解することが、取りこぼしを防ぐ基本です。要件を誤解していると、算定できるものを見逃したり、逆に要件を満たさないのに算定してしまったりします。最新の正確な情報に基づいて、要件を正しく理解することが大切です。
加算算定で特に注意したいこと
加算の算定には、注意すべき点もあります。誤った算定はトラブルのもとになるため、慎重に対応しましょう。
要件を満たさない算定は返戻・過誤のもと
算定要件を満たしていないのに加算を算定すると、返戻(請求の差し戻し)や過誤(誤った請求)につながります。これらは、事務負担が増えるだけでなく、事業所の信頼にも関わります。要件を確実に満たしていることを確認したうえで算定することが、何より大切です。曖昧なまま算定するのは避けましょう。
記録が算定の根拠になる
前述の通り、記録は加算算定の根拠です。「実際に要件を満たすケアを提供した」ことを示すのは記録です。記録が不十分だと、たとえ実際に要件を満たしていても、算定の正当性を示せません。日々の記録を丁寧に残すことが、正しい算定を支えます。
実地指導でも確認される
加算の算定が適切に行われているかは、行政による実地指導(運営指導)でも確認されます。要件を満たさない算定や、記録の不備が指摘されると、返還を求められることもあります。日頃から、要件を満たした算定と、適切な記録を心がけることが、実地指導への備えにもなります。実地指導については、「訪問看護の実地指導(運営指導)対策|準備すべきチェックリストと当日の流れを徹底解説」で詳しく解説しています。
加算は必ず最新情報を確認する
この記事で繰り返しお伝えしてきた、最も重要な点を改めて強調します。加算は、必ず最新の情報を確認することが不可欠です。
診療報酬・介護報酬は定期的に改定される
診療報酬・介護報酬は、定期的に改定されます。改定のたびに、加算が新設・見直し・廃止され、単位数や算定要件も変わります。数年前の情報が、今も正しいとは限りません。改定の内容を把握し、最新の制度に対応することが、正確な算定の前提です。
単位数・要件は変わる前提で
加算の単位数や算定要件は「変わるもの」という前提で捉えることが大切です。だからこそ、この記事でも個別の単位数は扱わず、分類と趣旨を中心に解説してきました。具体的な単位数や要件を知りたい場合は、必ずその時点での最新の告示・通知を確認してください。古い情報のまま算定すると、誤りのもとになります。
確認すべき情報源
加算の正確な情報は、厚生労働省や関係機関が公表する最新の告示・通知、各自治体からの情報、信頼できる請求ソフトの情報などで確認できます。不明な点は、自治体の担当窓口や、関係団体に問い合わせることも有効です。正確な情報源にあたることが、正しい算定への近道です。自己判断や古い情報に頼らず、必ず公式な最新情報を確認しましょう。
よくある質問
訪問看護の加算にはどんなものがありますか?
介護保険・医療保険それぞれに、体制に関する加算、サービス提供の状況に応じた加算、ターミナルケアに関する加算など、多くの種類があります。加算は数が多く、また改定で変わるため、自事業所が算定できるものを、最新の情報に基づいて把握することが大切です。個別の加算の詳細は、最新の告示・通知で確認してください。
加算の算定には届出が必要ですか?
加算によって異なります。あらかじめ行政への届出が必要な加算と、要件を満たせばその都度算定できる加算があります。届出が必要な加算は、体制を整えて届け出ることではじめて算定できます。算定したい加算に届出が必要かを確認し、漏れなく手続きすることが大切です。
介護保険と医療保険で加算は違いますか?
違います。介護保険と医療保険では、加算の体系が異なり、名称や要件、算定の仕組みも違います。訪問看護はどちらの保険でも提供されるため、それぞれの加算を理解しておく必要があります。どちらの保険が適用されるかによって、算定できる加算も変わります。
開業直後でも算定できる加算はありますか?
あります。提供したサービスの状況に応じて算定する加算のなかには、体制を大きく整えなくても、要件を満たせば算定できるものがあります。一方、体制整備や届出が必要な加算は、準備が整ってから算定できます。開業初期は算定しやすい加算から確実に算定し、段階的に体制を整えていくのが現実的です。
加算の最新情報はどこで確認できますか?
厚生労働省や関係機関が公表する最新の告示・通知、各自治体からの情報、信頼できる請求ソフトの情報などで確認できます。加算は改定で変わるため、必ずその時点での最新情報を確認することが大切です。不明な点は、自治体の担当窓口や関係団体に問い合わせるとよいでしょう。
まとめ
訪問看護の加算は、基本報酬に上乗せされる報酬で、適切に算定できれば事業所の収益向上につながる重要なものです。加算には、介護保険・医療保険それぞれに、体制に関するもの、サービス提供の状況に応じるもの、ターミナルケアに関するものなど、多くの種類があります。届出が必要なものと、その都度算定するものがあり、利用者の状態や、別表7・8、特別訪問看護指示書といった制度とも関わり合っています。
加算を取りこぼさないためには、届出の漏れを防ぎ、記録を整備し、スタッフ間で算定要件を共有し、請求ソフトの設定を見直すことが大切です。また、要件を満たさない算定は返戻や過誤、実地指導での指摘につながるため、正確な算定と記録が求められます。そして何より重要なのは、加算の単位数や算定要件は改定で変わるため、必ず最新の告示・通知で確認することです。この記事では制度の全体像と考え方をお伝えしましたが、実際の算定にあたっては、必ずその時点での最新の正確な情報をご確認ください。正しい加算の理解と算定が、事業所の健全な経営を支えます。
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